Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    器用? 不器用?
 



 それが知れ渡ってしまうと微妙に甘えにくくなったり、か弱い素振りがしにくくなったり、不都合な場合もあるから、あのね? 巧妙に当人がサジ加減を取ってのこと…ながら、それほど広くは知られちゃあいないこと。

  『おリボンが上手に結ばらないの、ミカちゃんくくってヨvv』とか、
  『このおミカン、すっごく柔らかくてきれいに剥けないよう〜』とか。

 真っ白な肌にいや映える、ふわふわの金髪に金茶の大きな瞳もうるうると。折れそうなほど華奢な手足に薄い胸板細い肩…といった、それはそれは愛らしい姿をしているのみならず、こういった絶妙な言動もご披露することにより。天使か仔猫かと言わんばかりの愛くるしさにて、手近な婦女子の皆様がたを籠絡して回り、味方につけてる恐るべき小学生である、蛭魔さんチの妖一坊やは。実は…大人顔負けなほどに何でも出来る“超小学生”としても知られている、いやさ恐れられてる坊やだったりもし。パソコン操作によるネット検索は基本中の基本、そこから辿り着いたどんな難物のファイアーウォールでさえ、ものの数秒で破壊した揚げ句に、さんざ暴れて小細工の限りを尽くしてからののち、絶対に追尾されたことがないという、恐るべきサイバーテロリストであるのを皮切りに。今時のデジタル機器はもとより、大概の家電ならば仕組みを知り尽くしてもいるらしく。携帯電話からデジカメ、ファックス、テレビに掃除機、洗濯機。空気清浄機から電子レンジに至るまで。設定や何やをこっそりといじくり、誤作動させたり妙な事態を招いたりという悪戯もお手のものなのだそうで。
『…こないだ からかったのは謝るから、いい加減、ウチの換気扇から熱風がしかも逆噴射するのを何とかして下さい。』
『どこにも何にもセットされてねぇのに、どうして電気ポットから毎回毎回番茶が出るようにしやがったんだよ。カップめんが喰えねぇだろうが。』
『洗濯機にどうやって、あんな…色っぽいAV女優の声の出るタイマーなんざつけやがったんだ?』
 お陰さんで、カノジョに変態扱いされてフラレそうなんだよと言ってた、アメフト部の誰かさんには…色んな意味合いからあんまり同情は集まらなかったみたいだが。
(笑) それ以外にも手先が器用で、図画工作やら裁縫などなど、子供とは思えぬ出来栄えで仕上げてしまえる腕前の持ち主だし、様々に物知りでことわざにも詳しければ、モデルガンの扱いにも長けており。英語はペラペラで、速読も達者なら、簡単な天気図が読解出来たりもするし。そういった頭でっかちな要素ばかりではなく、体を動かすのもなかなかに機敏。俊足だし、すばしっこいし、泳ぐのも大好きだし、縄跳びでは何と2年生では唯一の一人だけ“3重飛び”が出来たりし。ボール投げも、コントロールがずば抜けていいことは賊学カメレオンズの皆様からのお墨付き。高いところへよじ登るのも得意なら、そこから飛び降りる度胸もずば抜けてあったりし(苦笑)、えっと他には何かあったっけ?


 そんな彼に唯一、お母さん以外でこんなことを、面と向かって言ったお人が一人いる。

  『何でまたそうまで、得手不得手に偏りがあるんだろうな、お前はよ。』

 ムッとした坊やが、でもね、あのね。ま・いっかって、そんな物言いを許した相手。大きな手のひらで頭を撫でてくれるのへ、首をすくめて、でも殊更嬉しそうに、ふんわり・うふふvvと笑ってしまう。そんな相性の…大好きなお兄さんだったから、まあいいかなって思ったの。






            ◇



 3月半ば。閏年でないならば、いただいたのと同じ曜日になるもんだから、いやこっちは土曜で日曜でなんて逃げる訳にもいかないまま、バレンタインデイのお返しをする日。所謂“ホワイトデイ”と相成りまして。他へは一切、メグさんへだって“お返し”なんてしないと聞いてたのに、坊やにだけは例外であるらしく、
「一応はマーブルチョコの弾丸をもらったことだしな。」
「マーブルチョコじゃねぇよ、m&mだ。」
 相変わらず、妙なところがおっさん臭いよなルイってば…なんて。そっちこそ相変わらずの憎まれ口を利いたところが、差し出されたのは大きな包み。何とか両腕で懸命に抱きとめて、
「…? なんだ?これ?」
 自分と同じくらいあるやもというほどもの大きさの包みは、けれどさして重くはなく。まさか進を真似ての、しょむない海産物の縫いぐるみじゃあるまいなと、このシリーズに馴染みのある方にしか判らない省略でありながらも、いろんなところへ棘が飛んで来そうな言いようをする金髪痩躯の坊やであり。
“どうせ当事者二人には、棘だってことさえ伝わらねぇと思うがな。”
 あ、それは言えそうかも。
(笑)
「いいから開けてみ。」
 此処は坊やのご自宅で。お兄さんたらバイクのシートにくくりつけて持って来たらしかったが、それにしては形崩れというのか、壊れてもいない気配であり。縫いぐるみでないなら何だろかと、店名の印刷はない つやのある包装紙をべりべりと引き破って開いたところが、

  「あっ!!」

 女の子の魔女っ子ものアニメに便乗した変身グッズとかドレスだとかに負けないくらい、今時は男の子向けにも“戦隊ヒーローもの”への変身グッズとそれから、バトルスーツを模したパジャマとか着ぐるみとかがあるらしいが。賊学カメレオンズの主将にして、坊やのアメフト好きも知り尽くしているお兄さんが用意なさったプレゼントは、
「ペイトリオッツのユニフォームだっっ!」
 本場アメリカのNFLでも有名な古豪、アメフトリーグの常勝チームのレプリカユニフォーム一式(子供用)であり、しかも此処が至れり尽くせり、
「アウェイとホームと両方じゃんか。しかもメットとプロテクターもっ! あっ、グローブとスパイクもあるっ!」
 やったやったと跳びはねての喜びように、お父さんもしみじみと満足のご様子で。
“…誰が“お父さん”だ、誰が。”
 顔が笑ってるままです、総長さん。
(笑) 着てもいいかと聞きながら、既にトレーナーの襟ぐりに手をかけてる妖一くんは、常から“大人脱ぎ”をしているらしく。裾を持って腕を胸元へ交差させ、ペケぽんを作っての脱ぎ方ではなく。襟元からまずは顎を埋め、頭を服の中へと潜らせながら、後ろ襟を引っ張り上げて、そのまま一気に抜いて脱ぐところが、これも器用さの片鱗か。さすがにプロテクターまで付けてみるつもりはなかったようだが、それでも…着てからがまた大騒ぎ。
「わああっ!」
 プロテクターを見越しても肩のところがまだ大きかったかな、ううん、こんくらいすぐ追いつく。チームカラーの切り返しもシャープな、本物の縮小版のユニフォーム。大雑把に思われそうなアメリカ産で、しかも子供用のレプリカでも、そこは…ロイヤリティーが発生する品だからか結構丁寧な仕上がりになっており。まるで女の子がピアノの発表会のドレスを誂えてもらったかのごとく、くるくる回ってまでの喜びようなのが、この彼にはめずらしいほど素直な感情の発露だったため、
“なんか、こっちまで貰った気がするよな…。”
 何って? 臭い言いようですが、幸せを。
(う〜ん) 日頃はこれでもかと研ぎ澄まされてて、泣く子も黙る鋭さに尖っている筈の三白眼を、本人も気づかぬうちに和ませて。わ〜いわ〜いと喜ぶ幼子を、組んだお膝に頬杖ついてという格好にて、にやにや・ほのぼの眺めていると、
「なあなあ、そんじゃあサ。お返しに今日は昼飯を作ってやるぞ。」
「…はい?」
 不意なこととて反応が遅れた。チョコったってほんの2、3粒しかルイ食ってないのにサ、こんな凄げぇの貰っちゃあ釣り合わねぇからな。なかなかに殊勝な言い方をし、それから、
「今から作ってくっから、此処で待ってな。」
「あ…。」
 いやあの、そんなお気を遣わなくっても。お返しほしさに贈ったんじゃないんだし、それにしたってもう十分に貰ったのにな。屈託のない素直な笑い方、本当に嬉しいって跳びはねてまで喜んでくれたのを見せてくれたから。それでもう十分だったのにと、やっぱりお父さんみたいな感慨を胸の中で転がしてみる。興奮したままの坊やが、台所へとパタパタ向かってしまったんで、リビングが一気に静かになって、それも何だか物寂しいし。
“う〜ん。これはやっぱり段取りが悪かったかな?”
 食後に渡すべきだったか、でも、これからどっかへ喰いに行こうっていう、いつもの調子でいたからなあ。やっぱり自分チへ呼んで渡した方が良かったか、でもそれじゃあ持って帰らすのに大荷物になるし。いくら車で送るにしても、それだとこちらのお母様からのご挨拶とかありそうだったし。あーうーと考え込んでて、ふと、別な方向へ思いが及んだのは、
「熱ーっっ!」
 いきなりの突然に、そんな大声が聞こえたからで。何だなんだ何事だ、台所から聞こえたぞと、立ち上がってすぐ、廊下の向こうのキッチンダイニングへと飛び込めば、
「何だよルイ、そっちで待ってろって言ったじゃんか。」
 エプロン姿の妖一くんが、踏み台に乗っかって棚の上から片手ナベを降ろしているところ。顔はこっちを向いてる片手の作業であり、取り落としはせぬかと“あわわ”と慌てるこっちをよそに、
「大丈夫だから。インスタントラーメンとチャーハン作るだけだからサ。」
 そんくらい、幼稚園のとっから作ってんだと言い張るので、怒らせるのも剣呑だからと、渋々引き返した葉柱のお兄さんだったが。
“…ちょっと待て。”
 何か、違和感がなかったか? お家にいてルイさんを迎えた側の坊やは普段着姿。汚しちゃいけないと思ったかユニフォームは脱いでおり、持ってったらしいトレーナーを着直していて。ボトムは七分ズボンにハイソックスという、小さなお膝の何とも可愛らしいカッコをしていた。トレーナーの袖が萌え丈で、小さくて白い手の甲の、半分を覆うようになってたのが危なっかしく見えたのか? いやいや、そんなのはちゃんとまくり上げる子だから心配は要らない。そういや去年のバレンタインには、自家製のチョコレートをくれたじゃないか。合宿でもチアの女子に混ざって料理の手伝いをしていたし、本人が言ったインスタントラーメンとチャーハン程度の料理なら、あれほど器用な子なんだから、あっさり簡単に作れてしまうはず…。
“何をやって熱がってたんだ?”
 自分もプロではないからね。詳しいところは知らないが、インスタントラーメンと来れば熱いお湯、チャーハンの方は細かく刻んだ材料で。片手ナベを取ってたから、まだ湯を沸かす前だったはずだし、チャーハンに至っては、まずは食材を刻むところから始めないか?
「???」
 それと。今 思い出したのが、
“いやに散らかってなかったか?”
 台所が。妖一坊やのお母様は、お料理が得意の良く出来た奥方で。平日の昼の間はお仕事に出てらっしゃるが、それでもお部屋はきちんと片付けてらっしゃるし、洗濯物とかが出しっ放しになってるところなぞ、一度だって見たことはないし。台所にしたっても、
“確かさっきは…。”
 今さっき覗いたより少し前、通り道のついでだと、リビングへ行く前に棚の上からコーヒー粉を取ってくれと頼まれて入ったときは、流し台にもテーブルにも、何の食器も調理器具も残ってはおらずというきっぱりした片付きようだったのに。今は…結構なあれこれで、流しもテーブルもにぎやかになっていたような?
“コーヒーメーカーは判るが…。”
 美味しいのを淹れていただきましたので、それへと使ったのは判る。だが、
「……………。」
 あんまり詳しい方ではないけれど。フードプロセッサーならともかく、芋をつぶすのに使う、頑丈な金型みたいなマッシャーは、炒めものの材料を刻むのには使わないと思うし、何で既に3つほどものフライパンが流しに浸かっていたのだろうか。そうこう思う背後からは、
「おおっと。」
 がちゃりこちゃりと、割れるところまでは行かないながらも、なかなか賑やかな食器の触れ合う音とかがし。鍋をかんかんこんとお玉で軽く叩く音がするのは、炒めに入ったからだろか。それにしては…なんでまた酢の匂いが、一瞬だけ強烈に通り過ぎたのかな? しゃきりしゃきりという爽やかな音はハサミを使っているらしいけど、ネギでも切っているのかな? 結構包丁使いは器用だったように記憶してるんだけれども。まま、家ではハサミってタイプなのかも? 異様なくらいに賑やかな物音が鳴り響いたのが…30分も続いただろうか。
「ルイ〜〜〜、出来たぞ〜〜〜。」
 持って来には重いから、こっちで食おう。そういうことでと声をかけたらしい坊やであり、
「お、おう。」
 一体どんなものが出されるやらと、戦々恐々、それでも一応は顔を引き締め、疑いの気配は隠して…そちらへ向かってみれば。
「盛り付けは乱暴でも構わないよな?」
 レタス敷いたり、ニンジンを飾り切りにしたりなんてのは、面倒だったから省いたぞと、そうと言って椅子に座れと勧めるテーブルには、
「…おお。」
 インスタントだと言ってた割に、ちゃんと焼き豚とメンマとモヤシにホウレン草が乗ってる、手の混んだ仕上がりのものが待っており、片やのチャーハンもむきえびにグリンピースに、ハムにピーマン、タマネギにニンジン、青ネギに椎茸に玉子…と、五目では収まらない凝りようで。しかも、
「…美味い。」
「だろ?」
 ご飯はぱらぱら、なのに油っこくもなく。材料それぞれからもダシというのか風味が出ていて、野菜は歯触りもあって適度にしゃきしゃき。ラーメンの方も、見るからにインスタントの麺なのに、どうしたものかスープが極ウマ。さすがは超小学生で、料理の腕前までパーフェクトだったのかと………。いやあの、そういうオチで結んでもいいんだが。

  「で。何でこうまで、台所が散らかっとるんだ。」
  「さあ?」

 流しに浸かってる鍋は両手で足りない数に増えてるし、まな板も4つ。お玉に至っては何本あるのかという方向へも驚きの本数が出ているし、何でだかジューサーミキサーと魚焼き用のロースターも出してあるし。コンロ前の床には大きな蒸し器も置いてあり、
「作り始めると熱中しちゃうから自分でも判らないんだけど。」
 そうと前おいてから坊やが言うには、どうもあれこれと、手の届く限りの道具とか使いまくるらしくてサ、とのことで。
「出来上がると同時、コンロの前から一歩も動けない時もあんぞ。」
 あっはっはっと笑う豪気な坊っちゃんであり、これこそが究極の男の料理ってか?
“いや、それは“男の料理”一般ってもんへの誤解だと思うんですが。”
 何度口へ運んでも、そりゃあ美味しい出来なんだけれどもねぇ。
「おかげで母ちゃんは絶対に台所には立たせてくれなくてサ。」
 そりゃあなあ。
(苦笑) これじゃあ却って大変だもの。

  「何でまたそうまで、得手不得手に偏りがあるんだろうな、お前はよ。」

 呆れたように言うお兄さんだったのも、ある意味でしょうがなかったのかも知れず。
「…後で一緒に片付けような?」
「おうっ♪」
 相変わらずにバッテンの握り箸のまま、それは無邪気に笑った坊やの笑顔が、やっぱりとっても愛らしかったので。やれやれだなあとは思ったものの、

  “こういうところも…可愛げなのかもな”と。

 だから好きなんかなとかぼんやりと思っては、再評価して“終わってるポイント”をまたまた自力計上しちゃってる、しょうことなしのお兄さんだったりしたらしいです。テーブルに添って並んだ、大小二つの背中の向こう。流し台の小窓には、季節外れの小雪が舞ってましたが、お部屋の中はほかほかで、一足早い春のようだったそうですよvv




  〜Fine〜  06.3.14.


  *どこが“ホワイトデー”ネタなんでしょうか。
(笑)

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